祖父の団扇(1/2)

聞くと、祖父は1935年の生まれらしい。

以前、祖父の幼少期の写真を見せてもらったことがある。

もちろん白黒の写真。ただ、当時の自分はそれを見ても別に何か驚いたり感動したりすることは特になかった。当時、中高生だった自分は、似たような写真を教科書で散々見ていたので、「教科書に載ってる写真と同じ感じ」というような受け止め方しかできなかったのである。昔の写真「あるある」を見たような感じ、というか。

ただ、思い返してみれば、あの写真は静止画ではなくて、かつて確実に存在していた「シーン」を切り取ったもの。本当はそこには色があって、動きがあった。あの写真の中はかつて本当にあった日本の景色で、その時代を祖父は生きていたのだ。

祖父は、終戦のラジオを聴いたらしい。祖父にとって、終戦のラジオは知識ではなく、記憶なのだ。これこそ、1935年生まれという人間に宿る凄みだ。

できればもう一度、その頃の話を聴いてみたい。

祖父が今年、流行り病に倒れ、病院で入院することになった。

母が僕に「お見舞いに行ってあげて」と涙ぐみながら声を絞ったとき、次会うのが最後なんだろうと察した。

祖父とは今年に入ってから何度か会っている。

正月の挨拶に行ったのはもちろん、それこそ今年は、祖父の米寿があったので、親戚一同で食事をした。そのときも、祖父は元気そうにお酒を飲んでいた。

祖父とどんな話をしよう。病院に向かう車中、僕は「1935年」を調べてみた。なんと、1935年はエルヴィスプレスリーの生まれ年だった。

他にも、

デュポン社が「ナイロン」を開発

ヒトラーがヴェルサイユ条約破棄

阪神タイガース(の全身の大阪野球倶楽部)が誕生

忠犬ハチ公死去

などなど。忠犬ハチ公って本当にいたんだ。


元記事URL: https://note.com/reitsuzuki/n/n649724e84d61
公開日: 2023-12-29 18:00