書店と防空壕

仕事の息抜きはたいていビル1階の書店。

まずは入り口近くで展示されている流行りの本をチェック。
それから小説、エッセイ、雑誌のエリアを見て、
最後に岩波文庫あたりをうろうろして帰る
(知的な感じでカッコいいじゃん??)。

この書店との付き合いは長い。
リニューアルのために数ヶ月の間、
休業していたことも知ってる。

ショックだった。
しばらくのあいだ、
この書店に立ち寄れないなんて。

でも、そのとき1番ショックに感じたのは、
それだけこの書店を愛していることを
自分で気づいていなかったこと。

この書店に対して、僕はずっと
「まぁお前でいいや」
と言わんばかりの態度だったと思う。

まるで恋愛関係になるときの
最悪の言い草とも言われかねない気持ちで
僕はその書店に足繁く通っていた。

仕事の息抜きの方法は人によって様々。
例えば、書店に行くことではなく、
タバコを吸うことが息抜きの人がいたとしよう。

僕がその人からタバコを取り上げたとき、
その人はタバコの旨さをはじめて知る。
多分、僕もそんな後悔に見舞われたのだと思う。

リニューアルオープンしてから少しして
また書店に通うようになって、
僕は「書店の魅力」について
考えるようになった。

例えば1つ、
「本屋さんは森のなか」
という言葉があるように、
本(紙の束)は「木」で出来ているから、
本棚に囲まれた空間は
森林にいるときさながらのリラクゼーションがある、
そう言っても差し支えないような気もする(?)。
まぁ「本屋さんは森のなか」という言葉が本当にあるかどうかは知らないんだけれど。

もう1つだけ、
書店の魅力を考える際に忘れちゃいけない観点が、
「パブリック」性だと思う。

書店で人は走り回ることはできない。
やろうと思えばできるという話ではなく現実的な話。

書店はみんなで利用するパブリックなものだから。
ゆっくりと、静かに歩きながら、
並んでいる本を眺めては、
目ぼしい1冊を手に取ってパラパラ捲る。
また別の棚の、別の本で同じことを繰り返す。
書店で過ごすとは基本的にはこの繰り返し。

要するに、書店という空間は
僕に対して常に「変わらない」振る舞いを
求めてくるのです。

僕は、この点こそ書店の魅力なんじゃないかと思うのです。
小学生の頃、社会の授業で防空壕に入ったことがあるのですが、
今思い返してみると少しだけ、書店と防空壕は似ているような気がします。

防空壕は地下にあって、
ある一定のレンジの中で気温が変わらないために、
夏は涼しく、冬は暖かい。
地上の気温は「変わる」。

防空壕ではそのときどきにおける快適さが「変わらないこと」で準備されている。

同様に、日常での振る舞いは「変わる」ことが求められる。
僕のようなPCをカタカタやってるタイプの仕事で、
最近はAIとやらも活用したりすると、
忙しいときは、鰻登りに物事の密度が高まっていく。
反対に、プライベートにおけるアクシデントで、
ぽっかりと時間が空くなんてこともザラ。

だから僕は、
「変わらない」振る舞いを求めてくる書店に
半ば衝動的に駆け込んでしまうのかもしれない。

書店で、僕は息を整えることができる。
小気味よい心拍数を取り戻すことができる。

当時、防空壕で息を潜めていた人は
「変わらない」防空壕に何を感じていたのだろう。